簿記3級や2級に受かったのに、実務では仕訳の手が止まる。「合格したのに分からないなんて、勉強が身についていないのでは」と落ちこむ人は多いです。
先に結論を書きます。簿記の試験と実務は、別の場面です。そして経理歴22年の私でも、いまだに勘定科目が出てこないことがあります。この記事では、その理由と、実務での切り抜け方(AIの使い方を含めて)をお伝えします。
いつも使う科目は反射で出る。使わない科目は出てこない
実務でよく使う勘定科目は、考えなくても手が動きます。毎日その仕訳を切っているからです。
ところが、年に1回あるかないかの取引になると話が変わります。ふだん使わない科目は、簿記の試験で覚えていても、その場ではすぐに出てきません。これは記憶力の問題ではなく、使う回数の問題です。
だから「簿記を取ったのに分からない」は、まったくおかしなことではありません。使っていない引き出しが開きにくいだけです。
本当の理由は「会社の取引を知らない」こと
もう1つ、もっと大きな理由があります。実務の仕訳は、取引の事実が分からないと決められないのです。
会社にお金が入っていても、それが何の入金か分からなければ、科目は決まりません。先に払ったお金も、何のために払ったのか、最後に何の費用になるのかが分からなければ、仮払金なのか前払費用なのか判断できません。
簿記の試験では、問題文に「何のお金か」が書いてあります。実務では、そこを自分で調べるところから始まります。ここが一番の違いです。
仕訳で迷ったら、科目を思い出そうとする前に事実を確認します。「このお金は、誰から・何のために・いつ・なぜ動いたのか」。ここがはっきりすると、科目は自然に決まります。
分からない仕訳は、AIに聞いてもいい
いまはChatGPTなどのAIに聞けば、仕訳の候補をすぐ出してくれます。使わない理由はありません。調べる時間はぐっと減ります。
ただし、大事な前提があります。AIはよく間違えます。それも、もっともらしい文章で間違えます。
AIが間違えやすいところ
- 借方と貸方の金額が合っていない:説明はきれいなのに、数字が合わない
- 増減の向きが逆:費用が増えたのに貸方に書いてある、資産が減ったのに借方にある、など
- 消費税の扱いが抜けている:税込と税抜が混ざる
- 実際には使っていない勘定科目を出してくる:会社ごとに使う科目は決まっているのに、一般的な名前で答える
ここで効いてくるのが簿記です。簿記の知識があると、答えを見た瞬間に「なんかおかしい」と気づけます。合計が合わない、向きが逆——これは基礎が入っていれば分かります。
つまり簿記は、AIの答えを見抜くための力になります。取ったのにむだだった、ということはありません。
現場から経理歴22年・ゆるゴースト
私も普段使わない科目のときはAIに聞きます。便利です。ただ、そのまま入力することはありません。金額の合計、借方と貸方の向き、消費税。この3つを必ず自分で見ます。おかしいと思ったら聞き直すか、自分で調べ直します。簿記をやっていなかったら、この「おかしい」に気づけなかったと思います。
AIへの聞き方のコツ
答えの精度は、聞き方でかなり変わります。取引の事実を全部入れて聞くのがコツです。
- 誰から誰に、いつ、いくら動いたのか
- 何のためのお金か(商品なのか、サービスなのか、前払いなのか)
- 消費税は税込か税抜か
- 会社で使っている勘定科目の一覧を先に伝える
そのうえで「この取引の仕訳を、借方と貸方に分けて出してください」と頼みます。出てきた答えは、合計・向き・消費税の3点を必ず自分で確認します。
もう1つ大事なことがあります。会社の取引の中身を、そのままAIに入れないでください。取引先の名前や金額などは会社の情報です。聞くときは、社名を伏せる、金額を丸めるなど、情報の扱いに気をつけてください。会社にルールがあるなら、それに従います。
最後に確認する相手は、やっぱり人
AIは調べる時間を減らしてくれますが、その会社でどう処理してきたかは知りません。同じ取引でも、会社によって使う科目が違うことはよくあります。
だから最後は、社内の先輩や上司、顧問の税理士に確認します。そのときも、自分の答えを持っていくと話が早いです。「AIはこう言っていて、自分もこう思うのですが、うちではどうしていますか」と聞けば、たいてい1分で終わります。
実務で迷いやすい仕訳の例
簿記の勉強では出てこないのに、実務ではよく迷う場面を3つ挙げます。共通しているのは、どれも「事実の確認」で決まることです。
交際費なのか、会議費なのか
同じ飲食代でも、相手と目的で扱いが変わります。誰と、何のためにを確認しないと決められません。金額の基準もあるので、迷ったら社内のルールと税理士の指示に合わせます。
消耗品なのか、固定資産なのか
買った物の金額と、何年使うかで変わります。金額の基準は会社によって決めてあることが多いので、まずその基準を確認します。
立替金なのか、仮払金なのか
あとで誰かから返してもらうお金なのか、精算して費用になるお金なのか。ここも「このお金は最後にどうなるのか」が分かれば決まります。
3つとも、AIに聞いても「一般的にはこうです」までしか出てきません。その会社でどう決めているかは、社内にしかない情報です。AIで当たりをつけて、社内の基準で確定する。この順番がいちばん速いです。
まとめ
- 簿記の試験と実務は別の場面。使わない科目が出てこないのは当たり前
- 実務で決められない本当の理由は「会社の取引を知らないこと」
- 分からない仕訳はAIに聞いていい。ただしAIは間違える
- 合計・借方貸方の向き・消費税の3点は必ず自分で確認する
- 簿記は「AIの答えを見抜く力」になる。だから取った意味がある
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参考・出典(公的機関のサイト)
※本記事は筆者の実務経験に基づく一般的な内容であり、個別の会計処理を保証するものではありません。実際の処理は社内の基準や税理士の指示に従ってください。2026年8月時点の情報に基づきます。
