「経理をやりながら、総務や労務も担当している」——中小企業では、めずらしくない働き方です。私もいまは経理と一緒に、総務・労務・人事を兼任しています。これまでに勤めた会社では、一般事務や営業事務が中心のこともありました。一度に全部やってきたわけではなく、会社が変わるたびに担当する範囲が変わってきたという感じです。
この記事では、兼任して実際に大変だったことと、それでも兼任がすごい武器になる理由を、現場の目線でお伝えします。これから経理を目指す人にも、いま兼任で苦しい人にも読んでほしい内容です。そしてこの兼任こそが、副業でいちばん効く強みだと思っています。最後にその話も書きました。
兼任すると、社員の生活の変化が全部ふりかかってくる
経理だけなら、向き合う相手はお金と数字です。ところが労務・人事まで持つと、社員一人ひとりの生活の変化が、そのまま自分の仕事になります。
- 結婚した・離婚した
- 引っ越した
- 子どもが生まれた
- 配偶者や子どもが働き始めた・仕事を辞めた
- 親を扶養に入れることになった
どれも、手続きが必要になる出来事です。しかも給与計算・社会保険・年末調整・住民税と、いくつもの仕事に同時に関わってきます。
いちばん大変なのは「社員が変更を言ってこない」こと
困るのは、仕事の量ではありません。変わったことを、社員が言ってこないことです。これは兼任かどうかに関係なく、労務を担当していれば必ずぶつかります。
私の経験では、とくに男性は言ってこない人が多いです。悪気があるわけではありません。「会社に言う必要がある」と思っていないだけです。
| 言ってこないこと | 本当は何が変わるか |
|---|---|
| 引っ越した | 通勤手当の金額が変わる。住所は年末調整や住民税の書類にも関わる |
| 結婚した | 氏名・住所の変更、配偶者を扶養に入れるかどうかの確認が必要 |
| 配偶者が働き始めた・仕事を辞めた | 税金の扶養も、社会保険の扶養も見直しになる |
| 子どもがアルバイトを始めた | 収入によっては扶養から外れる |
おもしろいことに、子どもが生まれたときだけは、みなさんちゃんと言ってきます。「子どもを健康保険に入れないといけない」と知っているからです。つまり手続きが要ると分かっていることは言ってくれる。逆に言えば、知らないことは言ってもらえません。
現場から経理歴22年のゆい
通勤手当は、引っ越しを教えてもらえないと、古い金額のまま払い続けることになります。あとで分かると、さかのぼって直すことになり、本人にも会社にも手間がかかります。扶養も同じで、年末調整のときに初めて分かって、慌てて直すことが何度もありました。「言ってくれれば5分で終わったのに」というのが本音です。
言ってもらうために、会社側でできること
社員を責めても変わりません。知らないだけだからです。だから、こちら側から先に伝える形にします。
- 入社のときに「こういうときは教えてください」を紙で渡す(結婚・引っ越し・扶養の変更・子どもの誕生・家族の就職や退職)
- 年に1回、全員に確認する。年末調整の時期に「変わったことはありませんか」と一言そえるだけで、かなり拾えます
- 「言うと得することもある」と伝える。手当がつく、控除が増える、といった話をすると届きやすくなります
これは会社の総務・人事の話ですが、副業で給与計算の仕事を受けるときにも同じことが起きます。給与計算業務とはもあわせてどうぞ。
大変なぶん、兼任は大きな武器になる
ここまで大変な話をしましたが、兼任の経験そのものは、とても価値があります。
- お金の流れを最初から最後まで知っている:請求も支払も給与も年末調整も自分で回すので、数字がどこから来たのか分かる
- 大手では分かれている仕事を、ひととおり経験している:大手企業は経理でも仕事が細かく分かれていて、自分の担当した部分しか分からない人が多くいます
- 求人で重宝される:中小企業は専任の担当を置けないので、「経理もできて、給与計算も社会保険もできる」人は探されています
- 副業にそのままつながる:記帳代行だけでなく、給与計算の代行や労務のサポートまで受けられる
転職のときは、この兼任の経験を必ず伝えてください(経理の転職を成功させるコツ)。副業として何ができるかは総務の経験を活かせる副業「労務の経験でどんな副業ができる?」——そう思ったら労務の経験を活かせる副業へ。受けられる仕事と、やってはいけない線引きが分かります。
兼任がつらいときに、まず削れること
全部を同じ力でやろうとすると続きません。私が意識しているのはこの3つです。
- 期限があるものを先にする:給与・支払い・社会保険の届出は日が決まっています。ここを外さない
- 毎月同じことは形を作る:チェックリストにして、考えなくても回るようにする
- 人に聞くことを我慢しない:分からないまま抱えるのが一番時間を使います
兼任の1年カレンダー:いつ、何が来るのか
兼任がきついのは、経理の締めと、労務の手続きが同じ時期に重なるからです。1年の流れを知っておくと、身構えられます。
下の表は、3月決算(4月はじまり)の会社を例にしています。決算月は会社によって違いますので、決算まわりの行は、自分の会社の決算月に置きかえて読んでください。
| 時期 | 経理 | 総務・労務・人事 |
|---|---|---|
| 4月 | 期首の処理、前期の決算作業 | 入社の手続き、保険の加入、新年度の書類 |
| 5〜6月 | 決算・申告のまとめ | 住民税の通知が届く。全員ぶんを給与に反映する |
| 7月 | 月次の締め | 社会保険の算定基礎届。労働保険の年度更新 |
| 11〜12月 | 月次の締め、年末の支払い | 年末調整。書類を集めて計算する |
| 1月 | 月次の締め | 法定調書、給与支払報告書を市区町村へ |
| 随時 | 毎月の締め・支払い・請求 | 入社・退社、扶養の変更、住所変更 |
ここで大事なのは、労務の予定は、決算月がいつでも同じ時期に来るということです。住民税の切りかえ(6月)、社会保険の算定基礎届(7月)、年末調整(11〜12月)、法定調書(1月)は、どの会社も同じです。動くのは経理側の決算作業だけ。
だから、自分の会社の決算月を、この表に重ねてみてください。決算作業と労務の予定が重なる月が、その年のいちばん忙しい時期になります。4月はじまりの会社なら6月と年末、12月決算の会社なら1〜2月あたりが山場です。ここは前もって準備しておかないと、月次の締めが後ろにずれます。
この経験は、副業でこう活きます
兼任してきたことは、このサイトでいちばん伝えたい強みです。
中小企業の案件は「まとめてお願いしたい」で来る
人をかけられない会社ほど、経理だけ・労務だけ、という頼み方をしません。「帳簿もお願いしたいし、できれば給与も」という形で来ます。
大きな会社で経理だけをやってきた人は、ここで手が止まります。兼任してきた人は、そのまま受けられます。
「つながり」が見えているのが強い
給与計算をすると社会保険料が動き、それが仕訳になり、年末調整につながります。この流れを1人で回してきた人は、どこを直すと何に響くかが分かります。
分かれている会社では、この全体が見えません。兼任は大変ですが、大変だったぶんが、そのまま外での価値になります。
受けるときに言えること
「経理と一緒に、給与計算と社会保険の手続きもやってきました。入退社のときに何が必要かも分かります」
これを1行で言えるかどうかです。ただし手続きの代行には資格の線引きがあります(税理士法・社労士法の境界線)。計算と資料づくりまでにして、届出そのものは会社にやってもらう形が安全です。
まとめ
- 兼任すると、社員の生活の変化が全部仕事になる
- いちばん大変なのは「変わったことを社員が言ってこない」こと
- 子どもの誕生だけは言ってくる=手続きが要ると知っていることは伝わる
- だから会社側から「こういうときは教えてください」と先に伝える
- 兼任の経験は、転職でも副業でも大きな武器になる
大変さと引きかえに手に入るのは、お金と人の動きを両方知っているという強みです。これは経理だけをやってきた人には作れない経験です。
参考・出典(公的機関のサイト)
※本記事は筆者の実務経験に基づく一般的な内容であり、手続きの詳細は会社の規程や加入している保険者により異なります。2026年8月時点の情報に基づきます。
